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  藤野、デパートに行く
Author: 銀鷹 様


「っくしゅん!」
春海を送って外に出るなり春海がくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと首元が寒かっただけ。平気平気。じゃぁまたな」
「う、うん」
手を振って別れると、藤野は部屋に入った。
つけっぱなしのテレビからクリスマスソングが流れている。
「あー。もうすぐクリスマスか・・・。リア充ば・・・」
こたつに入りながらお決まりの台詞を言いかけて、口を噤む。
自分も、いちゃいちゃしてるリア充に分類されるのかも知れないと思い当たったからだ。
そしてテレビでは大好きな人に手編みのものを送ろうというコーナーが始まっていた。
美人の局アナが手編み初心者にはマフラーが良いと力説している。
「ツバキたんが手編みのセーターとか作ってくれたら最高なんだけどな・・・」
そう呟きながら、藤野はこたつで寝てしまったのだった。


翌日。
仕事が早く終わった藤野は、某有名デパートに来ていた。
目の前の男物のマフラーを見比べて悩んでいる。予想よりちょっと高い。
色違いらしく、黒地に白と紺の縦ラインが入ったものと、紺地に白と黒の縦ラインが入ったものだ。
「んー。二つ買うのも変だし・・・そうだ」
とりあえず一つだけ買って、数日後にまた来ればいい。二つ買ったりすればプレゼントかと聞かれるだろうが、日をずらせば分からないだろう。
「あ、でもそしたら包んで貰えないか・・?うーん、包まなくても・・・」
うんうん唸りながら悩んでいると、不意に後から声がした。
「藤野?何やってんの、こんなところで」
「は、春海!」
反射的にぱっと手を離す。
春海は不思議そうにしていたが、マフラーに気付くと言った。
「藤野がデパートって珍しいよなー。なぁ、マフラー貰うならどんな感じが良い?」
「えっ?」
どういう意味か図りかね、藤野は固まってしまった。しかしそれを見た春海は笑いながら言った。
「あ、ごめん、藤野にあげるんじゃなくてさ」
ますます頭が混乱する。春海は続けた。
「あ、欲しかった?ってか、俺が藤野から欲しい」
「は、はぁ?」
まさかの台詞に思わず声が裏返ってしまった。春海は笑いながら言った。
「藤野がくれるわけねーよなー。実はさ、ツバキが片想いしている奴、いるじゃん」
「へ?ツバキたん?」
全く話が見えない。しかし愛するツバキたんの事ならきちんと聞かなければ。そう思って春海の顔を見ると、春海はマフラーを品定めするように見比べながら言った。
「ツバキがマフラーを編んでプレゼントするんだけど、初めてって設定だからさ、どんな柄が良いかなぁって思って見に来たんだ」
「あー。取材か」
「うん。あ、ネタバレみたいになっちゃってゴメン」
「別にこのくらい良いけど・・・」
春海は暫くいくつかのマフラーを手に取って見比べていたが、やがてそれを売り場に戻した。
「なぁ、せっかく逢えたんだし、これから藤野の家に行ってもいい?」
「今日はダメ!」
「えー、なんで」
「早く原稿上げろよ、それまではダメ」
「ちぇー」
春海はぶつぶつ言いながらも諦めたのかひらひらと手を振り
「じゃぁまたなー」
と行ってしまった。
「行っちゃった・・・」
ちょうど藤野から春海がエレベータに乗り込む姿が見えた。
それが下へと動き始めたのを確認し、迷っていたマフラーのうちの一つを掴んでダッシュでレジに向かう。
「ご自宅用ですかー?」
間延びした声で問いかける店員にうんうん頷き、藤野はひったくるようにしてマフラーを受け取り家路に就いたのだった。


そしてクリスマスまであと数日となったその日、藤野は先日買ったマフラーをつけて再びデパートを訪れていた。
色違いのマフラーを手に取り、レジに向かう。
無言でマフラーを差し出すと、レジの巨乳なお姉さんが言った。
「お包みしますね、8番になります」
「はっ、はいっ」
つい胸に目が行ってしまい後ろめたい気持ちになった藤野は、何が何だか分からないままレシートと番号札を受け取った。
「?」
一瞬意味が分からずまじまじと手の中の番号札を見る。
「なんで包んで欲しいって分かったんだろう?」
ふと顔を上げると「只今15分待ち」と書かれたポップがあり、クリスマスカラーの包装紙と格闘している数名の店員がいた。
「あ、クリスマスだからか」
元々包んで貰うつもりだったから自動的に包んで貰える事になって良かった。藤野は出来上がるまで近くの商品を見る事にして、手袋のコーナーにやってきた。
マフラーと同じようなストライプが入ったものもある。きっと、同じシリーズなのだろう。
「あっ、俺はマフラーじゃなくて手袋にすれば良かったかな?」
何とかして春海にマフラーを渡す事しか考えていなかったが、お揃いと知られればまたからかわれるに決まっている。しかし藤野は既にマフラーを使ってしまってるからそれを渡すわけにも行かない。
「うーん、失敗したかな・・・」
藤野は少々の後悔を抱えながらマフラーを受け取ると家路に就いた。


そしてクリスマスイブ。
春海は先日のホテルで食事をしようと言ってくれたが、結局は藤野の家で鍋パーティをする事になった。
水炊きと、骨付きチキンと、ショートケーキ。
もちろんビールや缶チューハイも用意済みだ。
暫く何気ない雑談が続いた後、春海が四角い包みを差し出した。
「これさ、クリスマスプレゼントって言うか・・・」
「え!?」
まさか春海もクリスマスプレゼントを用意してあるとは思わなかった藤野はとても驚いた。そして自分も、と取り出そうとした瞬間、春海の口から溢れた言葉に藤野は固まった。
「それさ、ツバキのサンタコスのイラスト・・・」
「まじで?!」
理解した瞬間、ひったくるように春海から奪う。
春海は少々呆れたように笑いながらビールを飲んだ。
「あ、開けていい?」
「もちろん」
丁寧に包みを開けると中から色紙が出てきた。
「わぁっ!春海、ありがと!」
「いいって。それより俺はお返しに藤野を好きにする権利がほ・・・」
「ツバキたん・・・かわいい・・・」
涎を垂らさんばかりに喜ぶ藤野に春海は小さく溜息を吐くと、またビールを飲み始めた。そして春海は暫くそんな藤野を眺めていたが、いつまで経っても鑑賞タイムが終わらないので声を掛けた。
「藤野。おい、藤野!どうせお前からクリスマスプレゼント無いんだろ?俺も何か欲しいなぁ」
「あ、ごめん、春海。えーっと、これ・・・」
少しだけ照れた藤野が差し出した包みを春海はぽかんとして受け取った。
正に想定外。
「あ、ありがと・・・」
「お前からしたら安物だろうけど、文句言うなよ?」
「あ、あぁもちろん」
少し呆けながら春海が包みを開けると、マフラーが入っていた。
「あれ?これ・・・藤野の?」
「なぁ、春海、額はないんだろ?明日買いに行ってこないと!って俺のじゃねーし!」
二人で同時に話し出し、同時に吹き出した。
「ぷっ、ぶっはー!」
そして藤野が床に置いてあった紺地のマフラーを持って言った。
「俺のはこれ」
「え?お揃い?」
瞬時に藤野が真っ赤になった。瞬間湯沸かし器のようだ。
「違ぇし!よく見ろよ、色が違うだろ?」
確かに、よく見ると春海のマフラーは黒地だ。
「へぇ、色違いのお揃いか、ありがとう」
春海が笑顔でそう言うと、藤野はプイッと横を向いて再びビールを飲み始めた。
「へーふーん、お揃いかぁ」
春海がわざと繰り返す。と、そこで先日の事を思い出した。
「もしかして、この間デパートにいたのって、このため?この包装紙ってあのデパートだよね?」
「ちっ、違っ・・・」
藤野が否定しようとしたが春海はそれに構わずにっこり笑って言った。
「ありがとう、藤野。愛してるよ」
「わっ、お前、止めろっ・・・んっっ・・・」


こうして押し倒された藤野は、まんまと春海の思惑通り美味しく頂かれたのでした。




END






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