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藤野くんと海とおっぱい、またはバナナフロート


 パラダーイスッ!
 海なんていいよ。もう何年も行ってないし。
 そんな台詞を昨夜ぼやいていたオレは、今、照りつける日差しの下で、喝采をあげていた。(ただし心の中で)
 そうだよなっ、海って言えば、フツー、水着だよなっ!
 ってことは、合法的に見放題ってわけなんだよ!
 何をって?
 そりゃ、もちろん、決まってる。
 言うまでもない!
「藤野。何見てるのかな?」
 痛い痛い痛い!
 今、ゴキッって音したぞ、ゴキッって!
 頭をつかまれて、強制的に向きを変えられたオレは、涙目で春海を睨んだ。
「な、何すんだよ、春海!」
「ごめんね? それで、何見てたのかな、藤野は」
 まったく誠意を感じられない謝罪の後、尚もしつこく春海は続けた。
 オレは正直に答えたものかどうか、迷った上で、答えた。
「それはもちろん、海だよ、海」
 嘘じゃない。嘘じゃないぞこれは。
 だって、視線の向こうにはちゃんとどこまでも広がる青い海が!
「うん。海だね。で、他には?」
 だが、春海はあくまで追求の手を緩めない。
 ところで、いい加減頭から手を離して欲しいんですけど……。
「海と……ええと……、海水浴客?」
「つまり、女の子だよね。ついでに言えば、ビキニの子メインで」
「わかってるならイチイチ聞くなよっ!」
 くっそーっ、性格悪いなこいつは!
 だってしょうがないじゃないか!
 右見ても左見ても、おっぱいが目に入るんだぞ!
 これで見ない方が逆におかしいだろ!?
 それに海に行こうって言ったの、お前の方だろ!
「………おっぱいが好きで何が悪い」
 オレは開き直った。
 相対する春海は、にっこり笑って答えた。
「うん、悪くないよ。ところで藤野。今日、何しに来たのか覚えてる?」
「何しにって……海水浴だろ」
「そう。久しぶりのデートで、海水浴に来てるんだよね」
「うっ………」
 そうだ。そう言えばそうだった。
 海にビキニの女の子を満喫しにきたのじゃなくて、目的はデートだった。
 いや、忘れてたわけじゃないぞ?
 忘れてたわけじゃないけど、目の前に女の子のおっぱいが薄い水着一枚隔てただけで見放題とかそんな状況に置かれるとだな……。
 スミマセン、正直ちょっと忘れてました。
 呆れたような春海の眼差しが痛い。
「大体、なんで眼鏡してんの」
 眼鏡のブリッジに指を引っ掛けて、春海が訊く。
 や、だってさあ……。
「眼鏡外すと、おっぱいが見えないから?」
「うん。って、いや、ちがくて! 足元! 足元とかよく見えないと危ないだろ? だから……」
 思わずついうなずいてから、慌てて否定した。
 笑顔が、さっきから春海の顔がずっと笑顔なのが逆に怖いよ!
「俺がいるから、問題ないだろ」
 そう言って(笑顔のまま)春海はオレの顔から眼鏡を取った。
 ああっ!
 おっぱいが!
 オレのおっぱいパラダイスがぼやけてしまう……っ!!
 遠ざかるパラダイスに、オレは心の中で涙した。
「海の中で落としたら危ないだろ? これ置きに行くから、藤野はここで大人しく待ってて。ついでに浮き輪か何か借りてくるから」
 しかし春海は容赦なくそう言い置くと、さっさと行ってしまった。
 なんというオニ! アクマ!!
 オレはすっかりぼやけて遠くなってしまったパラダイスを、必死に目を凝らして見つめた。
 近くにいた女の人が、そんなオレの視線に気づいたのか、急ぎ足で立ち去って行く。
 しまった、これじゃオレ、変質者か……!?
 ああ、今ほど視力のいいヤツが羨ましいことはない……っ!!
 オレが海よりも深く嘆いている間に、春海が戻ってきた。
 手には黄色い何かを抱えている。
「春海、何、それ……」
「ん? 浮き輪。バナナフロート」
「フツーの丸いドーナツ型のは?」
「これしか残ってなかったんだよね」
 そうなのか。じゃあ仕方ないな……。
 何かすっごく使いづらそうだけど、ないよりはマシか。
「じゃあ、行こうか。ハイ」
「……何?」
「手。足元、よく見えないんだろ。手、繋いでいこう」
「えっ……! い、いいよ、そのくらい、だいじょ…っ」
 だいじょうぶ、と続けて一歩を踏み出そうとしたら、慌てたのが悪かったのか躓いてしまった。
 砂場って、足の感触が違うからっ。
「ほら。遠慮しなくていいから」
「え、遠慮とかじゃなくてだな……」
 そう言ったものの、あっさりと春海に手を繋がれ、そのまま歩きだしてしまった。
 いやどうよ、砂浜で大の男が2人で手を繋いで歩くのとか。
 一瞬そう思ったけど、周り人多いし、他人は自分が気にしてるほど自分のこと見てないとか言うしな。
 それに第一、誰かが見て変に思ったとしても、それがオレからは見えないんだから……。
「藤野。どうかした?」
 黙り込んだオレを怪訝に思ったのか、春海が振り向いて呼んだ。
「な、何でもないっ」
 いいやもう。夏だし、海だし、水着だしっ!
 オレは春海の手をぎゅっと握り返して、さっきよりぼやけた海に向かって、春海と一緒に歩いた。
 
 これは、このバナナ型の浮き輪は……っ!!
 オレは海水をバチャバチャやりながら、悪戦苦闘していた。
「藤野、何やってんのー?」
「何って、見ればわかるだろ! このバナナにつかまろうとしてるんだよっ!」
 なのになんでさっきから、ツルツル滑るんだよ!
 逃げるなバナナッ!
 おまけに、ゆらゆら揺れて、安定感も悪いしっ。
 これホントに浮き輪なのか!?
 オレは何度目かのチャレンジで、またしてもバナナからつるんと逃げられて海に沈みそうになった。
 すぐに春海に片腕で救出されたが。
「藤野って、もしかしなくてもカナヅチ?」
「違うっ! 15メートルは泳げる!!」
「それ、ほとんど泳げないんじゃないの」
「ちょっと息継ぎが出来ないだけで、泳げないわけじゃない」
「いや、それを泳げないって言うんだよ、藤野」
 よく見えなくても、春海がくすくす笑っているのが気配でわかる。
 自分は浮き輪なしでも浮いてられるからって春海のヤツ……!
 くそー、だから海なんて来たくなかったんだよオレは。
 おっぱいからも遠ざけられ、何故このような苦行を……っ!
 そんなオレの内心など知る由もない春海は、さらなる難題をもちかけてきた。
「バナナ。押さえててやるから、乗ってみろよ」
「の、乗る……?」
「そう。これって、そうやって遊ぶもんじゃねえの?」
 え、そうなのか?
 確かに、カヌーみたいな形してるから、乗れそうではあるけど……乗れるのか?
「ほら、乗ってみなって」
「う……」
 楽しそうにうながされれば、オレも何だかその気になってきて、バナナフロートに乗ってみたくなってみた。
 バナナの端につかまって伸びあがると、春海は器用にバナナを片手で固定したまま、反対の手で俺の足をつかんでバナナの上にひきあげてくれた。
 おお……っ!?
「春海、乗れたっ!」
 振り向いてそう言ったら――春海は、俺の後ろから、バナナフロートを押さえていた――良かったな、と声が返って来て、なんだか嬉しい。
 おっぱいの見れない海なんて何の意味があるんだ、ってさっきまで思ったけど。
 ちょっとだけ、考えを変えてもいい気がしてきた。
 だがそれも、わずかな間だけだったが。
「ちょ、や……っ、やめろよ! う、動かすなって……!!」
「えー。動かした方が、気持ちいいだろ? ゆらゆらして」
「や……っ、きも、ちいい……ってより、こわ……っ、こわいから……っ!?」
「ちゃんとつかまってれば、大丈夫だって」
 イヤ、乗ってる本人が怖いっつってんだから……っ!
 なのに春海は、ただでさえ不安定なバナナフロートをさらにゆらゆら上下に動かした。
 滑る、つかまってても滑るって……!
「は、春海……っ、やめ……、やめて……って、あっ……!」
 ついにオレは、ぼちゃんと海の中に落ちてしまった。
 やっぱりすぐに引き上げられて、揺れるバナナにつかまったんだけど、鼻に水入ったぞ今……!
「春海! なんで止めなかったんだよ!?」
 オレは怒って春海を睨んだ。
 腰に腕を回されて密着してる状態だから、眼鏡がなくても春海の表情がわかる。
 春海はちょっと気まずそうに、苦笑していた。
「ごめん、つい……」
「つい、何だよ」
「調子に乗り過ぎた。バナナフロートに乗る藤野が、俺の予想を超えてエロかったから」
「は……はあ!?」
 何言ってんだ、こいつは!?
「バナナに藤野、ってだけでもエロスなのに、相乗効果は効くな」
 うなずきながらどこかしみじみと言う春海に、オレは首まで水の中に浸かってるのにも関わらず、顔を赤くして叫んだ。
「お、お前……バカじゃないか!?」
 もうどこから突っ込めばいいのかわからないんだけど!
 海水をすくって、思いっきりひっかけてやった。
 春海は前髪から水を滴らせながら、オレをじろりと見て、ふてぶてしく言った。
「おっぱい星人の藤野には言われたくない」
「何言ってんだよ! おっぱいは正義だろ! おっぱいと海はエロスだろ!?」
 即座に言い返しながらも、自分でも若干何を言いたいのかわからなくなってきた。
 や、でも、女の子の水着おっぱいを眺めて満喫するのはよくある海のシチュエーションだ。
 けど海でオレがバナナフロートに乗るのを眺めてエロいとかぬかすのはどう考えても妙だろ。
 ナイだろ!?
「いや、俺にはバナナフロートに乗る藤野の方がエロスだし」
 なのにいたって真面目にそう返されてしまった。本当に意味が分かりません……。
 そしてオレの腰に回していた手を上に移動して、
「それに、おっぱいなら、藤野のおっぱいの方が、断然エロい」
 水の中で、オレの乳首をきゅっとつまんだ。
「や……っ」
「おまけに、トップレスだし?」
 笑いながら、春海は続けた。
 アホかっ!
「男は元からトップレスだろっ!!」
 水から顔出てんのに、酸欠になりそうだ。
 しかもいつまで人の乳首を海の中で触ってんだよお前は……っ!!


終わり。



♥作者様コメント♥
ただ単に、海に行けば藤野くんも水着の女の子のおっぱいが見放題だな……。
でもそれだと春海は面白くないだろうな……そこでひと悶着あったりしたら楽しいよね! みたいな妄想でした(笑)
あと、海でイチャイチャしてる男同士ってかわゆいよね! 萌えるよね! みたいな。
でもそれだけだと、tnk好きの名倉隊長は物足りないだろうと思って、バナナをつけたしてみました(`・ω・´)ゞ
ちなみに私が最後に海水浴をしたのは小学生の頃で、バナナフロートはグーグル先生の画像検索でしか見たことがありません。
よってバナナフロートの描写は100%妄想で書いてます。実際は抜群の安定感を誇る浮き輪だったりしたらスミマセン(^_^;)
それと藤野くんが若干壊れ気味というか違う人になってしまってスミマセン……。春野もなんかちょっと変態チックになってしまい……。
でも藤野くんのおっぱいにかける情熱は頑張って描写してみました! おっぱいは正義☆


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